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会報140号(2018.2)23頁

 (公社)富山県鍼灸マッサージ師会による会報140号(2018.2)23頁です。

定期学術講習会を聴講して

(富山支部 中野 剛志)

 平成29年6月25日(日)に富山県鍼灸マッサージ師会の定期学術講習会が開催され、参加しました。テーマは「腰部脊柱管狭窄症その病態と対応、鍼灸臨床における触診・刺鍼部位」講師は東京大学医学附属部病院リハビリテーション部鍼灸部門主任 粕谷大智先生です。

 腰部脊柱管狭窄症は骨性脊柱管の狭小を基盤として、馬尾や神経根の障害よりに間欠跛行を主とする症状を呈する症候群。
 歩行や立位により痛みや痺れ感が生じ、前がかみの姿勢にて消失・軽滅する。神経の圧迫だけでは症状の出現はなく、神経の圧迫に神経内の血流障害が加わることで症状が発症すると考えられる。
 3つのタイプがあり、会際部の痺れなどを主症状として多根性障害を呈する馬尾型・下肢痛を主体とした単根性障害の神経根型・両者の合併した混合型に分類できる。神経根型は保存療法で症状が改善しやすく、馬尾型は自然経過が悪く、手術適応となる場合が多い。したがって臨床上の鑑別が重要になります。

 臨床においては神経の圧迫・血流障害の改善が中心に行われ、西洋医学的治療では薬物を中心とする血流改善を目的としたものと外科的手術による圧迫除去や腰を屈曲させる運動療法があります。
 最近ではリリカ・カプセルという痛みを伝える物質の過剰放出を抑え、痛みを和らげるお薬も用いられています。
 東大病院の鍼灸治療では神経内血流の改善や末梢循環の改善、腰部の筋緊張の改善を目的に狭窄部周囲である椎間関節部の刺鍼と障害されている末梢神経の神経刺激を主に行っています。腰部脊柱管狭窄症はL5・S1神経根障害が多く、浅腓骨神経領域の下腿外側から足先にかけて痛みや痺れを訴える患者が多い。したがって神経刺激は浅腓骨神経を刺激する治療法が多用されています。

 講演の中で史上初めての腰部脊柱管狭窄症に対する薬物療法と運動療法と鍼灸治療の3群比較の論文が紹介され、重症度の改善度・身体機能の改善度・患者満足度の全てにおいて鍼灸治療が高い評価を得てるいという結果は驚くべきもので、鍼灸治療の可能性を大いに感じさせるものでした。
 実技供覧では腰椎分離症で、立位時に右臀部から下腿外側への放散痛がある患者にモデルになっていただき、側臥位で腰椎の前屈が強くならない姿勢をとって先ず末梢神経のアプローチとして、浅腓骨神経刺激で腓骨頭の下の陽陵泉よりも後側の刺入ポイントに直角に刺鍼。前脛骨筋の足三里付近のポイントに直角で刺鍼。そして低周波通電も行いました。
 続いて椎間関節部のアプローチとしてL4・5間棘突起の下端より外方1.5〜2センチのポイントに直刺で刺鍼。ネバっとした組織が針先を通して感じられ、ひびき感が得られればよいそうです。多裂筋へのアプのローチとしてL5棘突起直側に刺鍼。腰方形筋にも硬結があったので、ここにも補助的に刺鍼されました。

 粕谷先生には大変わかりやすく、時にユーモアを交えて症状出現のメカニズム・鍼灸治療の実際・効果機序・刺鍼ポイントについて詳細に教えていただきました。どのポイントも的確で再現性があり十分治療効果が期待出来るものでした。高齢者の女性を中心に患者数が増えている腰部脊柱管狭窄症、私たち鍼灸師がこれからもよく向き合う症例です。

 後の臨床に大いに役立てたいと思います。

講演される粕谷先生実技指導される粕谷先生
講演される粕谷先生実技指導される粕谷先生