(公社)富山県鍼灸マッサージ師会による会報138号(2017.2)5頁です。
砺波支部 熊野知佳子
11月5〜6日、茨城県つくば市で開催された世界鍼灸学会に参加してきました。いろんな方からお誘いを受けたので期待を込めて参加を決めたものの、実際に出かけていくまでどんな会なのか想像がつかず、抄録も郵送されてこなかったので、何が見られるのか聞けるのかわからないまま、つくばへ向けて車を走らせました。
行ってみてびっくりだったのは、大勢の著名な先生方の講演講義が多数あったことでした。首藤傳明氏、岡田明三氏、谷岡賢徳氏、山口智氏、伊藤和憲氏、井上基浩氏、石原克己氏、藤本蓮風・新風氏、長野康司氏、井上悦子氏、村田渓子氏、小野博子氏、など日頃は書物でお目にかかっている先生方が次々と登壇され、治療理論を講義されるだけでなく、実際のモデルを治療するという形で実技の披露もありました。ホールのステージ上での実技でしたが、手元を撮影した映像が大画面に映し出されていたので、臨場感があり、その先生方の日々の臨床の様子や息遣いが伝わってくるものでした。
いつも本などを読みながら想像していた、首藤先生の超浅刺、谷岡先生の繊細で柔らかい手の動き、山口先生の思いのほか大胆な鍼さばき、伊藤先生の取穴の位置、など次々と見ることができました。磨き抜かれた技はやっぱり美しいなあ、としみじみ感じるとともに、会場の玄関入口に大きく掲げられていた今回の学会のサブタイトルが「美しき鍼灸」であったことに思い至りました。日本の鍼灸を世界に向けて発信するにあたり、あえて標準化しにくいこの「技」というものを前面に出す、というのが今回の学会の企画だったのかなと思いました。
世界鍼灸だけあって、世界各地で活躍している日本人鍼灸師の講演も多くありました。大中小の複数の会場で同時進行されるため、実際に話を聞けるのは限られるのですが、ネパールで鍼灸学校を立ち上げ鍼灸文化を現地に根付かせる活動をしてこられた畑美奈栄氏、アフリカの結核治療に日本のお灸を使い成果を上げておられる伊田屋幸子氏らのお話を聞くことができました。
私自身も若い頃、鍼灸をしながら海外で暮らしたいと思ったことがあるので、パワーあふれるお二人の女性鍼灸師の話は興味深く、勇気づけられるものでした。伊田屋氏らの活動は、アフリカの結核患者に足三里の直接灸を指導し自宅で毎日すえさせるというもので、日本に伝わる養生灸が免疫力を上げ病気を乗り越える力となることをあらためて示すものでした。このことを話のタネに、私ももっと患者さんにセルフケア(自宅灸)を勧めようと思いました。
「世界」と名のつく学会だったので英語がわからなかったらどうしよう、など心配もしていましたが、英語の講義には同時通訳がつきレシーバーを通して日本語で聴講できる体制が整っていて、言葉のストレスはほぼありませんでした。会場となったつくば国際会議場には大勢の鍼灸師が全国から集まっていて、どの会場もほぼ満席の盛況でした。多くの刺激を受け、美味しいお酒もいただいて、楽しくも充実した二日間でした。