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会報137号(2016.7)6頁

 (公社)富山県鍼灸マッサージ師会による会報137号(2016.7)6頁です。

富山鍼灸学会学術講習会を聴講して

 富山支部 中野剛志

 平成28年3月20日(日)に富山鍼灸学会学術講習会が開催され、参加してきました。テーマは「身体部位別ツボの特徴と任督中心療法パート2〜私の常用穴と治療システム〜」、講師は日本伝統鍼灸学会学術部長・蓬診療所阿佐ヶ谷所長 戸ケ崎正雄先生です。戸ケ崎先生は身体の正中にある任脈と督脈に重きを置き、任脈・督脈に対する治療を本治法とする任督中心療法の創始者です。

 戸ケ崎先生には以前全日本鍼灸学会中部支部学術集会で「任脈督脈を用いた全体調整について」というテーマで督脈による運動機能の調整の講義をしていただきまして、今回は続編として任脈による全体調整のお話です。

 任督中心療法とは経絡治療の考え方を基に、伝統医学の診断、治療の本質を全て備えたシステムで、体表(経絡・経筋)の異常を対象に行う治療と体内(臓腑)の異常を対象に行う治療に大きく分かれています。実際には「身体不均衡・経絡不調和・内臓不調和を対象にする全体治療」と「愁訴や全体治療後の微調整を対象にする部分治療」を併用して主として棒灸の施術が行われています。

 督脈は身体不均衡・陽経の経絡不調和の調整が可能で、任脈は陰経の経絡の不調和・内臓の不調や不調和の調整が可能である。内臓の不調や不調和では内臓と関連した督脈・任脈上、四肢関連経絡にツボの虚実が下記のように生じる。

  1. 肺系統では胸部:華蓋の上下、上背部:身柱の上下
  2. 心系統では胸腹部:だん中の上下、上背部:神道の上下
  3. 肝系統では右季肋部:期門周囲、背部:筋縮の上下
  4. 脾系統では腹部:臍部周囲、中背部:脊中の上下
  5. 腎系統では臍部から下腹部:神闕・関元の周囲、腰殿部:命門の上下・京門周囲

 実際の施術では上記の任脈・督脈、四肢の関連経絡上をやさしく触れて、陥下という凹んだ所や弱い部分を探す作業が重要で、高度な触診技術と指先の鋭敏な感覚が求められるなと感じました。内臓疾患系の全体治療は先ず任脈を治療し、その後督脈を治療するそうです。

 実技供覧では小脳梗塞から眩暈を発症している方にモデルになっていただきました。まず任脈、督脈、大腿外側、下腿外側、下腿内側と丁寧に触れて虚の箇所を探す作業で、神闕・?中が虚で運動器系の前後のねじれ、環跳の強い硬結を指摘。早速神道と上仙に棒灸15分、その後透熱灸と後頚部や環跳への刺鍼で症状がだいぶ落ち着いてきました。体の左右前後のバランスも良くなっておりました。丁寧に全体を診る触診、鮮やかな手さばきには感動いたしました。

 私自身も経絡治療を実践しておりますので、やさしく触れて適格にツボを探す動作や虚実の判断の仕方などまだまだ学びたいと思いました。

 今後の臨床に大いに役立てたいと思います。

講演される戸ヶ崎先生
講演される戸ヶ崎先生

戸ヶ崎先生の実技供覧
戸ヶ崎先生の実技供覧